※犬の思いの他は、ノンフィクションです。小学校4年生までで習う漢字で書いてあります。
大好きだよ
ボクは どうやら“犬”らしい。
「散歩がこわいなんて 変な犬。」って、よく言われるもん。
でも、ドライブは大好き。
部屋のどこかで 車のかぎがチャリってなると、身体のどこかが、ワクワク・ソワソワ・ドキドキ・ムズムズしちゃうんだ。
ボクが すわるのは 運転するママのとなり。
ガラスを通す お日様の光が まぶしすぎることもあるけれど、道路の横で 小さくザワザワしている緑色の葉っぱたちや、見上げると横に長く つながっている線のいろいろなもようや、次々変わる家の形は ちゃあんとよく見て 覚えてるんだ。
窓を開けると 風が入ってきて、いろいろなにおいがするよ。今度ボクみたいに鼻をピクピクさせてごらんよ。におい 面白いよ。
ただ ボクは たいてい お留守番なんだ。
ボクは わかってる。
だれかが あらい立てのにおいのする服に着がえる時や、みんなが同時に用意を始める時、ボクの水を新しくかえる時、いつもは いっしょに食事をするのに ボクだけ先にあたる時、いつもは自由におしっこするのに ボクにさせようとする時、・・・は、あやしいんだ。
でも そんな時でも たまには連れていってもらえるから、ボクは いっつも待っている。「いっしょに行くよ。」って言われるのを。
だれかが着がえている時も、ずっと、ちょっと はなれた所で 目を見つめてるんだ。
「いっしょ」って言葉 覚えたんだ。大好きだよ。
大きらいなのは 「おるす番」って言葉。
おるす番が わかると、サークルに入れられたくなくて、ボクは考える。
しりごみして、ソファと かべの間の せまい間に おしりをすっぽり入れるようにして、ひきずり出されないように がんばるんだ。
大好きな「チーズだよ。」の声にも つられるものか。
ほらほら ママが こまった顔をしているぞ。なかなかのもんでしょ。でも ママったら チーズをボクの鼻先に置くんだよ。
チーズのことなら ボクに聞いて! ボクは知っている。人間用のチーズは 犬用のチーズより“かなり”おいしいんだ。みんなは知らないでしょ? だって みんなは犬用のチーズは食べてみたことがないから。ボクは、犬用も人間用も 両方食べたことがあるからわかるんだ。えっへん。でも 塩分がどうとか、身体にいいかどうかは わからない。
そうそう、ママが そのおいしい方の 人間用のチーズを鼻先に置くんだ。鼻が自然に ヒクッ、ヒクヒクッって なっちゃうけど、がまんがまん。
そしたらママは、チーズをサークルまで てんてんと いくつか落として、“チーズの道”をつくるんだ。「ヘンゼルとグレーテルみたいね。」って声が聞こえてた。
二分くらい待った後、ボクはチーズを次々食べて、サークルに入る。
食いしんぼうだからじゃないんだよ。
チーズに負けたんじゃないんだ。
……ママやみんなを ずっと こまらせてるのイヤなんだ。
「いっしょ」の言葉より、ドライブより、チーズより、何より、ずっとずっと大好きだから。
「フォルテ いっしょに行くよ―。」
やった♪
ボクのしっぽ、見える?